金曜正午はバイオロジーセミナーの時間。発表後希望する学生やポスドクと講演者が別室でピザなどを食べながらお話するという場が設けられる。一度だけ参加したことがあるがピザがまずくてそれ以来ランチには参加していない。
さて、今日の発表はジョンズホプキンス大学のアシスタントプロフェッサー。トルコだかの出身らしい。先週それをオーガナイズするうちのアシスタントプロフェッサーから「彼は若くして実績を上げた研究者だが、いかにポジションをゲットしてラボを立ち上げるかについて深い洞察を持った人なのでぜひランチに参加したら良いぞ」というメールがまわってきていた。ちょっと興味をそそられたが、でもめんどくさいので申し込みはせずにいた。
ところが今日うちのボスが「彼は面白い人物なのでランチに参加してみたら」と言う。正直気は重かったがそこまで言うなら、とセミナー後ランチに参加。行ってビックリ俺以外は全員女の子。ひえ~。しかし結果行ってよかった。ものすごく刺激を受けた。今日はこの気持ちが冷めないうちに書き残しておきたい。
まず驚いたのは一人だけいたポスドクの女性が「アメリカの男女差別」について語りだしたこと。彼女と同じラボの学生も「女性はこうあるべきっていう先入観に従わないとインタビューでうまくいかない」みたいなこと言いだした。え!アメリカって完全に男女平等じゃないの?「アメリカを見習って男女平等にしよう」つって日本で男女雇用均等法とか出来たんじゃなかったっけ?彼女らの意見に講演者も同意し面白おかしく話し始めた。彼の奥さんも研究者で同じころに独立ポジションを探し始めたらしい。彼はネイチャーひとつにサイエンス2報、奥さんはセルひとつにニューロン2報という業績(自慢かよ)だったが最初は教育職しかオファーがなかった(マジかよ?)。それが最終的には彼だけジョンズホプキンス大学という一流大学で職をゲットし、奥さんはその下で働くことに。彼よりもずっと出来るのに(彼曰く)だ。
「ほんまかいな」と思ったが、よく考えてみると確かにそうだよ。少なくとも生物学科は女性のほうが多く、今回のランチだって男は俺一人だ。それが教授、助教授となるととたんに女性の数が少なくなる。うちの大学では育児休暇もない。なるほど、ウーマンリブで女性の権利を戦って勝ち取ったアメリカ人女性たちだが、まだまだ壁は厚いんだ。その女性たちの圧倒的な支持を受けたヒラリーも、男性のみならず彼女を嫌う女性たちの前に敗れたわけか。知らなかったよ、今の若いアメリカ人女性も戦っているんだ。
「時間がなくなってきたのでみなのこれからの予定や希望を聞こう」ということになった。旦那がインドでファカルティーポジションを得たので帰国してポスドクをする予定のインド人留学生。先ほどのポスドク女性はこの7月でボスの予算が切れるので次の職探し中。ファカルティーポジションに応募しているが旦那の仕事の関係上この町を離れられないので第二ポスドク先も探そうと考えているとか。うーむ、他人事ではない。うちのラボからも3人参加していたが、彼女らが今のラボの状態やプロジェクトの進行状況に不満を抱いているらしいことが判明。うすうす感づいてはいたけど。
講演者の訛りの強い、しかし熱い話は続く。「医療系の大学院に進みたがる学生は多いが、僕に言わせれば技術が進歩していろんな研究が可能になった今こそ大いに基礎科学を楽しむ好機だと思う。」「まだ大学院一年生?でも今から自分のキャリアプランを具体的に考えておきなさい。どうやって学位を取得し、どこの研究室でポスドクし、どれだけの業績をあげてラボヘッドに挑戦するか。でないとあっという間に時は過ぎ、なんだもうポスドクだよ、ってなことになってるから。」同感。「常に次のステップに何が必要なのか考えなさい。ボスがあなたはすばらしいとか言ってるなんて関係ない。いくつ論文があるのか、具体的な業績こそが重要なんだ。」「実験したり、いろんなアイデアいじくって有頂天になるのは楽しい。しかし論文を書いたりグラント申請するというつらい仕事を避けてはいけない。自分もそうやって今ファカルティーポジションを得ることが出来たが、そうしてなかったら今頃どこを漂っていることか・・・。それでもいま次のテニュア審査のために少しでも多くの論文を書こうと必死こいてるんだ。」そして最後に強調「文献を読みなさい。たくさん文献を読みなさい。それが次のアイデアを生むし、無駄な実験をするのを避けることが出来る」いたい。痛いです、耳が。
頭をガツンと一撃された俺は自分の過去を振り返らずにはおれなかった。一言でいって「行き当たりばったり」まるで俺の旅スタイルと一緒。「この研究室に行ったらどうなるか」なんてあまり考えず「面白そうじゃん」というノリで生きてたな。そうだ思い出した「綿密に次の進路を計算するなんてクソ食らえ、先がわからないから面白いんじゃないか」と考えてたんだ。第2ポスドクなんて当たり前、新しい経験が積める良いチャンスだくらいに思ってて、ここに来るときも実際にラボを見に行くこともせず電話インタビューで決定。そしてあっという間に2年間が過ぎた。
とにかく参加してよかった。アメリカ人やそこで奮闘する若い外国人たちの生の姿を垣間見ることができたし、あらためて競争社会アメリカで生きていくことについての洞察を得ることができた。心の中で講演者に叫ぶ。「すばらしいお話ありがとう。でもなんで8年前に言ってくれなかったんだ?」
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いや、きっと同じだったろう。人間そう簡単に性質を変えられるものじゃない。リッチの言葉にぐさっと来たのはつい数ヶ月前の話。あれからいくつ論文を読んだ?のんびりしたバージニアの大学にいるとついまわりを見て安心してしまうが、やはり現実は厳しいということをまたまた思い知らされた。願わくばこの気持ちがずっと続いて欲しい。
あーあ、もう手遅れかなぁ・・・。そうかもしれん。だがしかし、と自分を奮い立たせる。よーし、こんな俺が今からどこまで行けるのか、または行けないのか挑戦してやる。そして晒してやるぞ。
あれ、前も同じようなこと言ってなかったっけ?まあいいや。
さて、いつものやついきますか。
頑張れ、俺!
しかし長いな今回、最長記録か?
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